重力からみた三宅島について

活動の地殻変動は殆ど終息。
15億トンのマグマが三宅島−神津島間の地下を循環しており、
推定600万トンのガスが放出される?

2000年12月26日「三宅島噴火災害情報交換会」での報告
東大地震研究所 大久保 修平
http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/okubo/

関連URL:

当日説明で用いられた図が紹介されています(東大地震研究所重力グループ)

  1. 2000年12月-2001年1月の重力変化[1/30](情報交換会以降の発表ですが、変化がみられます)
  2. 2000年11月-12月の重力変化[12/27]
  3. 2000年10月-11月の重力変化[11/29]
  4. 2000年9月-10月の重力変化[11/11]
  5. 2000年神津島の重力変化[09/22]
  6. 2000年三宅島火山の重力変化[09/07]
  7. 2000年三宅島火山の重力変化[08/25]
  8. 2000年三宅島火山の重力変化[08/07]
  9. 三宅島島内重力測定 [07/10 16:40]
  1. 大学総合観測班からの現地情報(大久保さんの現地情報も紹介されています)

当日配布された資料:

  1. 4枚刷り資料
  2. 毎日新聞「多彩な方法で観測」
  3. 火山ガスの測定の仕方
  4. 重力の問題
  5. 資料
毎日新聞の記事は、よくまとまった記事である。

■重力とはなにか

要するに物を落としてどんどん早くなる(加速)こと。
手を離した瞬間はゼロ。重力の加速の度合い、という。長ったらしいのでまとめて「重力」という。

宇宙に行くと手を離しても落ちないが、地球ではマイクを持っていなければならない。手を離すと落ちてしまう。
どうして物が落ちるかというと万有引力があるため。

地面の下にはたくさんの石がある。
それぞれが綱引きをし、それが合わさった力をりんごが感じている。
引っ張る力は質量に比例する。つまり重さに比例する。
引っ張られるものと引っ張るものとの距離にも関係する。

■重力で地下の何がわかるのか

場所によって引っ張る力は違う。
地面の下に重いものが埋まっている場合などは、強くなる。
重いマグマが強く引っ張る。重いものの真上であればあるほど、重力は強くなる。
重いものの直上では重力は強くなる。
逆にマグマがいなくなり、空洞ができるとその場所は重力が弱くなる。
雄山陥没直前などに顕著。
重力の方向もある。
自分よりも高いところに重いものがあればそちらに引っ張られる。そこで下向きの重力は弱くなる。

時間変化をみる:「重力地震学・火山学の最前線」
地盤の隆起あるいは沈降があると、隆起をすれば重力が減る。無重力の宇宙に近付くわけである。
重力が減れば、地盤が隆起したのだなという見方もできる。そこで調査した場所の高さを調べている。
いろいろな場所で重力を測っていくと、火山の内部がどう変化しているかという手掛かりが得られる。

観測機器の写真。暗い。測候所が停電しているから。
いつも停電している。気象庁の発電機(9月頃から、軽油で動く)
重力測定とはどういうことをやるかというと、大きな重力計では重いので携帯型重力計で行う。

大きくて重い重力計を測候所の基準点に固定し、そこを基準にして携帯型重力計を島内の多数の点に持ち運んで測定を行う。重いほうは6000万円。携帯型のは800万円。
消防はガス検知。警察は連絡と非常時対応。

重力チームは毎月1回。1週間から10日ずつ。7月以来これまで50日作業をした。

■三宅島の火山活動の段階(ステージ)

資料(表)

6月まで噴火予知連が一番自身を持っていた時期

群発地震、世界的にも珍しい規模。
三宅島は雄山が陥没を始めた。

8月なかば以後は爆発期

9月以降は脱ガス期

いまどうなっているかは、今が一番よくわからない。
これまでのおさらいも必要。

一日あたりの地震回数

トータルで2万までいかないが相当数になっている。


重力変化

"地上のSUPERNOVA" http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/okubo/miyakeg_ok.htmlより

98年6月を基準にするとマイナス140。
猛烈な重力の減少。
マグマが抜け、隙間ができ陥没ができたということ。
引っ張るべきものがいなくなると隙間ができ、重力が減る。
これは、7月7日の地震研報告ではもう明らかになっていた。

マグマが還流してきている地域では、重力が増えている。 単位はマイクロガル
坪田地区で沈降が始まっている。重力が増えている。

質問

真ん中の、マグマがいなくなって重力が減るところはまた戻るわけですね。

大久保

この場所でもう一度測れればよいが、ドンと落ちてしまった同じ場所に行けない。
噴火の直前はパンパンに膨れている。
その上をちょっと栓を抜くと、圧力が下がり岩盤が収縮し全体的に重力が増えるということだ。

質問

重力測定はリモートセンシングはできないのか。

大久保

リモートセンシングは1000倍ぐらい精度が低く、このような図は作成できない。
逆に、道路べたでも、電池を持っていけば測れるのが今回の測定の有利さだった。
この点は、火山のコミュニティの方には評価していただいている。

質問

天気予報では高気圧と低気圧がある。行ったり来たり。マグマでもそういうことがあるのか。

大久保

そうです。あります。

■島の地下で何が起っていたのか

島の西のマグマが貫入しているところがあって、移動し、ついに海底噴火を起こした。
最初は非常に真ん中のマグマの圧力が高かった。

第一の段階。
差し渡しが1キロメートル、厚さが100メートル。
空洞が測定で見付かったというのは世界初のデータになっていく筈。
注目を集めているデータです。

島の真下に空洞。1.5キロくらいの深さにある。島の直径は8キロ。

空洞深さ1500から2000メートル。
体積7000万から1億立方メートル。

第三の段階



7月1日から9日の9日間。
何千という地震が起きている。

8月18日直前になるともっといっぱい地震が起きている。
岩盤を外へ引っ張っている。
神津島沖で地震が多く、三宅のほうの地震が少ないのが謎だったが、
最初に貫入してしまったので、なめらかにマグマが通る通路ができてしまった。それで地震が少なかったのだろう。

マグマが押し入るときにぴしっと岩が割れる。それで地震が起こる。
地震が多かった海底重力計はほとんど試験段階。
こういう海域で測定できればよいのだが、陸上ほどの精度がでない。

標高差800メートルくらい。
雄山の陥没。空洞ができた。薄皮がなくなり、ぽこんと落ちてしまった。

空洞より高い部分は下向きに引っ張る力が減るので重力は減る。
空洞より低い部分はぐっと重力が下向きに増えてしまう。
空洞の出来ている位置、高さにより、重力の増えかた減りかたが違ってくる。
増えもせず減りもしないのは空洞の高さ。

重力変化が小さいところが空洞の中心の高さであることが分かる。

えぐれた部分の重心はどんどん下がっていく。

重力の増加。実際、坪田のあたりが沈降している。

三宅島の地図上では、蝶の羽根のような位置に重力増加が見られる。

9月から10月のあいだも全く同じようなーパターンが続いている。


ダイク閉口モデル

http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/okubo/miyakeg_ok5.html より


ダイクの口の両サイドが狭まっている。

蝶の羽根のようなパターンが続いている。
その後11月から12月には、蝶の羽根のようなものは見えなくなり、地殻変動は終息し始めていると思っている。

http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/okubo/miyakeg_ok7.html より


10月半ばまでがけっこう激しい変動だった。
しかし火山ガスとは関係なく、地殻変動という意味で。
同じデータを2箇月分足すと蝶の羽根のような地殻変動は観察されるが、火山活動の地殻変動は殆ど終息しているのだろうと思う。

島の中央軸の位置にタプタプの流体がある。
その両側が狭まってきている。

ガスが出るため近付けず、データ不足。

■火山ガスが出尽くすまでどれくらいかかるのか。

私の現在のイメージです。もしかして10パーセントくらいの確率でそういうこともあるだろうと思ってください。

15億トンのマグマ。(三宅島から神津島に連なる巨大な割れ目に入り込んで循環しているマグマ量の推定値)
この中に溶け込みうるSO2は600万トン。

ざっと計算して、一日3万トンで200日で600万トンになる。

放出量はだんだん減っていく。
ガスが1万トン2万トンのレベルに落ちるかどうかがこの仮説が正しいかどうかの分かれ目になる。
私の見方が間違っていたらごめんなさい。

15億トンは計算上で出すほとんど確かな数字。
マグマがより深いところから供給されつづけても、そこから出るガスは一日3万トンも出るはずがない。
もっとずっとずっと少ない。

ガスを放出して沈み込み、地下を循環しているマグマはそんなに簡単には冷えない。
深さ数キロであれば温度400度。地表より冷えにくい。外側は冷えるが中は冷めない。

この200日という数字が独り歩きしないようにお願いします。


2001年1月30日 追記(藤井)

「地殻変動は再加速か?」
島の北東部から南西に向かう軸を対称軸としたバタフライ(蝶々)のような変動が復活しているようです.

2000年12月-2001年1月の重力変化[1/30](情報交換会以降の発表